マスター講座 実践編その2 - オープニングについて -

●はじめに

 こんにちは、前頁に引き続き担当させていただきます、ムジカ・トラスです。

 今回は、「業務の流れ」で最初に登場した「オープニング」についてご説明します。
 オープニングとは、シナリオ全体の起承転結でいうと「起」にあたるストーリー冒頭の部分のことで、たとえば「Aという村がゴブリンに襲われています。解決してください」のような内容を書いた文章です。
 しかし、プレイヤーがオープニングを読んだ時、参加したいと思えるシナリオでなければ、参加者の数が足りずにシナリオが不成立になってしまうでしょう。そうすると、マスターはその先の工程であるマスタリングにも、リプレイにも進むことができません。
 
 今回はマスター試験だけでなく、マスターになった後も重要になる「参加したいと思えるオープニング」について、お話しさせていただこうと思います。

●参加したいと思えるオープニング

 一度、視点をプレイヤーに変えて考えてみましょう。
 シナリオの土台となる世界観を「剣と魔法の王道ファンタジー」だとして、あなたは、その世界に「熱血漢で、正義感の強い修行中の剣士」というキャラクターを誕生させました。そして、こんなオープニングを見かけたと仮定します。

「さっき作ったキャラクターはこんなことをしそうだなあ」と、プレイング(行動指針)を書くつもりでお読みください。


 その日、ギルドの受付嬢が差し出したのはアルパカ村からの緊急の依頼書だった。
 なんてことはない、ゴブリン退治の依頼だ。緑色の肌の小人が、錆びた剣を持っている絵が添えられている。
「ほんっと、いつまでたってもゴブリン被害はなくならないわね」
 ウェーブがかった亜麻色の髪の受付嬢はため息をひとつこぼすと、依頼を受けた冒険者たちを見渡し、首を振った。
「愚痴ばっかりいっても仕方ないわね。寂れた村で、報酬も相応にしか渡せないから申し訳ないけれど、こうして依頼を受けてくれるだけでもありがたいわ。相手はたかがゴブリンとはいえ、怪我はしないように気をつけてね」

●解説
目的:ゴブリンを退治してください

詳細:ゴブリンx3。
 身長90cm程度の緑色の肌を持つ亜人。武器はそれぞれ錆びた剣、棍棒、折れた槍。
 特殊な能力は持たず、武器で殴るほか、噛み付きなどもする。
 細かな連携などを行う知性はない。

味方戦力
 特記なし

 提示したのは、いわゆる「ゴブリンを退治するシナリオ」ですが、PBWのシナリオとしては「参加者が集まりにくい」という前置きが付きます。
「(他のシナリオではなく)このシナリオに参加してみたい!」あるいは「こんな行動をさせたい」「こんなセリフを言わせたい」と思ったでしょうか?

 ひょっとしたら、「またゴブリンか……まあいいや、路銀も尽きてきたし、俺の剣の錆にしてやるぜ!」くらいは考えたかもしれませんが、どういう風に行動をすれば楽しめるかを考えるのは難しいのではないでしょうか。
 先ほどのオープニングでは、そういった行動のフックになる情報をあえて省いています。
 何に気をつけるか、どういった気持ちで望むか、セリフはどのようなことを言うか……これらを書くための足がかりがないオープニングは、プレイヤーにとっては遊びにくいシナリオとなってしまいがちです。

 では、次のようなオープニングであれば、どうでしょうか?


 少女は、生まれてこのかた、村を出たことはなかった。
 それでも確かに少女は満たされていたのだった。アルパカ村はたいして豊かな村でもなければ、有名な逸話も伝承もない辺鄙な村だけれど、それでも、平和だった。
 村の唯一の特産ともいえるアルパカは皆温厚で、彼女は村の一員としてアルパカたちを大いに愛で、アルパカたちも少女の世話によく応え、健やかに過ごしてくれた。両親が早逝した彼女にとっては、アルパカたちは家族に他ならなかったのだ。
 そう、平和だった。
 ――その日、亜人たちに襲われるまでは。

 その日、ギルドの受付嬢が差し出したのはアルパカ村からの緊急の依頼書だった。
 なんてことはない、ゴブリン退治の依頼だ。緑色の肌の小人が、錆びた剣を持っている絵が添えられている。
「ほんっと、いつまでたってもゴブリン被害はなくならないわね」
 ウェーブのかかった茶髪をおろした受付嬢はため息をひとつこぼすと、依頼を受けた冒険者たちを見渡し、首を振った。
「愚痴ばっかりいっても仕方ないわね。寂れた村で、報酬も相応にしか渡せないから申し訳ないけれど……こうして依頼を受けてくれるだけでもありがたいわ。相手はたかがゴブリンとはいえ、怪我はしないように気をつけてね」
 そこまで言った後、受付嬢は「それと」と付け足す。
「アルパカ村が襲われたとき、その村で飼育していたアルパカが攫われたみたいなの。場所は……ええ、ほんと、ごめんなさい。ややこしいことを押し付けちゃうけれど」
 つとそらした視線の先に、赤毛を結い上げた少女がいた。年のころは8つ、9つ。泣き腫らした目が、冒険者たちをまっすぐに見つめている。年の割りに深い悲しみと焦りが塗りこめられた瞳だった。
「あの……っ!」
 受付嬢の言葉を継ぐように、少女が声を張った。 
「あの子たちを、コネたちを、助けてください!」
「私たちも反対しているんだけど、全然聞き入れてもらえなくってね」
 痛まし気な顔で、受付嬢は小さく頭を下げた。
「連れて行ってくれなければ、一人でも行くっていって聞かないの。当然、連れて行かないと場所も教えない、って」
「だ、だって。あの子たちを助けてくれるかわかんないもん! わたし、ゴブリンが居る場所まで追いかけたから場所はわかるの! だから、お願い!」
「……ということ。割に合わないかもしれないけれど、この子も連れて行ってほしいの。村の人たちがどれだけ言っても聞かなくて……」
「わたし、じっとしてるから! お願い……コネたちを助けてあげて……」
 そう言う少女の声を遮るように受付嬢はあなたの耳元に口を寄せると、こう囁いた。
「この子の世話があなたの手に負えなさそうなら、村の人には私から伝えておくわよ。ゴブリンたちがいる場所についたら、この子を抑えて見張ってもらえるようにはできるわ」
 そう言ったのち、受付嬢は依頼状に判子を押したのだった。

●解説
目的:
 少女の身の安全を確保したうえで、ゴブリンを退治してください。
 可能であればアルパカたちの救出をお願いします。

詳細:
▼敵情報:ゴブリンx3。
 身長90cm程度の緑色の肌を持つ亜人。武器はそれぞれ錆びた剣、棍棒、折れた槍。
 特殊な能力は持たず、武器で殴るほか、噛み付きなどもする。
 細かな連携などを行う知性はない。

 場所は村から1kmほど離れた森の中にある、元野営地。はるか昔に放棄されたものでボロボロになっていますが、2メートルほどの木の柵で覆われています。中には家屋らしいものはなく開けています。現在はゴブリンが住まいとしているようです。

 南側に門があり。半壊しているため、ヒトひとり分程度しか出入りできません。
 少女の証言によると、アルパカのコネたちは北西の柵につながれているそうです。合計5匹ほど。

 村の男衆はゴブリンを撃退した際にケガを負っておりうごけません。要請があれば村の女性が少女についてくれます。

▼その他
 現地到着は夕刻ごろです。
 村に少女をおいていくことは可能ですが、その場合、暗くなってからゴブリンの戦闘となる可能性が高いでしょう。

 このように、プレイヤーにとって、オープニングで状況や条件が設定されていることは必ずしも重荷というわけではありません。むしろ、それを足がかりにキャラクターの個性をいかしたプレイングを書くことができるという点や、ゲーム性を高めるという点で、プレイヤーに対する訴求力は高くなっていきます。
 プレイングが書きやすいシナリオは、それだけでプレイヤーの参加動機になり得るのです。

 また、オープニング中の「課題(ゴブリンを倒すこと)」や「制約(アルパカを守ること、女の子がついていきたがっていること)」は、参加したキャラクターのプレイングに自ずと道筋をつけていくことになります。
 これらに対する「反応」は、自然と「キャラクターらしい反応」になるため、お預かりするキャラクターの理解にも役立つなど、マスタリングしやすく、リプレイを書きやすいプレイングをいただくことにも繋がります。

 さらには、これら「課題」や「制約」について考えた「プレイング」こそ、プレイヤーが「自身のキャラクターにさせたいこと」を籠めた、マスターへのメッセージとも言えます。
 このあたりの処理(マスタリング)については別頁にて扱いますが、オープニングにちょっとした工夫を加えるだけで、プレイヤーの満足度を高めるための重要なメッセージを得ることができるのです。

 ここで一度、まとめましょう。

1.オープニングにおいて、プレイングを書きやすくする状況や条件が設定されていると訴求力が高まる
2.オープニング中の「課題」や「制約」は、「キャラクターらしい反応を引き出す」ことにも有用
3.上述の反応は、「プレイヤーがキャラクターにしてほしいこと」をまとめたメッセージでもある

 オープニングを作成する際は、「プレイヤー(あるいはキャラクター)が、このシナリオに入りたくなるか」という目線をもつことが重要です。
 マスターとしては、ついシナリオ内の謎や罠、危険のほうに力を入れてしまいがちですが、プレイヤーが楽しめるかはまた別のお話です。

 マスターとして習熟すれば色々なシナリオが作れますし、どんなプレイングが届いたとしても、リプレイに仕上げることはできるでしょう。しかし、「プレイングを書きやすい」オープニングになるよう意識することで、最終的にはマスタリングやリプレイにかかる手間が減ります。

 これからマスターを目指す皆さんにとって、とても大事なことですので、是非活用してください。

 → ■マスター講座実践編その3 - プレイングについて -


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 0.初級編 - まだPBWを知らない方へ -
 1.実践編その1 - MS業務概論 -
 2.実践編その2 - オープニングについて -
 3.実践編その3 - プレイングについて -
 4.実践編その4 - マスタリングについて -
 5.実践編その5 - リプレイについて -

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