東京インソムニア イメージノベル第3回!

●はじめに

こんにちは、アルパカコネクト運営です。

現在アルパカコネクトでは、クローズドβテストを実施中です! 志願してくださったプレイヤーさんとマスターさんにご協力いただき、実際のシナリオ運用を行いながら、システムやUIのチェックを行っております。

さてそんな中、本日のアルパカコネクトblogは、都市型現代伝奇ノベルPBW『東京インソムニア』のワールドディレクター(WD)をつとめる弊社の狸穴醒による『東京インソムニア』イメージノベル「出口、なし」第3話をお届けします。公式NPCのレイジ東尾しづが活躍する物語を、引き続きお楽しみください!

東京インソムニアイメージノベル『出口、なし』第1回
東京インソムニアイメージノベル『出口、なし』第2回

▼都市型現代伝奇ノベルPBW『東京インソムニア』公式サイト


レイジ(イラスト:倉津

東尾しづ(イラスト:れんた

●出口、なし(3)


 ぬるい夜気の向こうから潮の匂いが漂ってくる。天を衝かんばかりに建ち並ぶ高層マンション群も窓の灯りの大半が消え、航空障害灯だけをともしたシルエットを灰色の夜空に浮かび上がらせていた。
 きれいに舗装された道の両側には深夜にも関わらず街灯が煌々と輝いている。区画整備されたこの一帯は、清潔さと秩序において都内でも有数のエリアだ。
 だが、死角がないわけではない。建物の陰、街灯の足元、公園の茂み。目を凝らせば、そこここに闇が凝っている。
 およそ、この世に闇のない場所などない。現代においてそれが駆逐されたように見えるのは、ただ皆が目を逸らしているだけなのだ。
 高層マンションの谷間で、闇が蠢いた。マンションに付属したごみ保管用の小屋、その陰に淀んだ黒っぽい塊が、ほとんど一体化していた壁からちぎれ、縦に細長い姿をゆらりと現す。
「よう。いい夜だな」
 場違いな声に、影は文字通り飛び上がった。掌に収まるほどの小さなものが、かしゃんと音を立てて地面へ転がる。
「へえ、いいもん持ってるじゃねえか」
「――!」
 金髪を黒いパーカーのフードに押し込めたレイジが、足元に落ちたスマートフォンに手を伸ばす。と、ごみ保管小屋の蔭に隠れていた先客が彼に掴みかかってきた。
「か、か、返せ……!」
「おっと」
 体力には自信のないレイジだが、相手は明らかに素人だった。軽くかわして逆に相手の手首を掴む。
「ひっ」
「なあ、こんなところで何してたんだ?」
「は、離せっ」
 眼鏡が街灯の光を反射した。中背で痩せぎすのその男は、声からしてまだ若いように思える。
「馬鹿か。離せって言われて離す奴がいるわけねーだろが……あいでっ!?」
 足の甲に痛みが走って咄嗟に手を離す。その隙に相手はレイジを思いきり突き飛ばして駆け出した。
「おい、止まれ! 逃げ出すとか怪しいことしてますって言ってるようなもんだぞ!」
 しかし火事場の馬鹿力とでもいうのか、若い男は猛スピードで走り去っていく。レイジの声だけが、深夜のマンション街に虚しく響いた。
 そのとき、レイジのジーンズのポケットでスマートフォンが震えた。
「よう、オーナー」
『首尾はどうだい?』
 レイジはしづに現状を報告した。
『なんだい、逃げられたのかい』
「うっせ。用事は済んだからいいんだよ。オーナーのほうもぬかりはねえだろうな?」
『任せんしゃい。その近くのホテル・アルパに部屋を用意してある。あたしもすぐ合流するよ』
 自信たっぷりのしづの声に、レイジは頷いた。
「上等」



 そこは、円柱の建ち並ぶ広場のような場所だった。
 頭上は暗く、屋外なのか室内なのかも判然としない。狭いが清潔なホテルの部屋はどこにもなく、だだっ広くどこか不安を催させる風景が、遥か彼方まで続いている。
「ダイブ成功、っと」
 レイジは手のひらを開閉させる。黒い素材に包まれた手は、問題なく動いた。
 手だけではない、今の彼は全身一分の隙もなく、つやのあるエナメルのような真っ黒いスーツに覆われている。それが衣装なのか外皮なのかは彼自身もよくわかっていなかった。頭部はバイク用のヘルメットに似た形状で目元はバイザーで隠れているが、視界に影響はない。
 と、レイジの隣の空間が映像にノイズが走ったかのようにぶれた。次の瞬間、その場に若い女が現れる。
「このあたしを引っ張り出すなんて、お前さんのクソ度胸には恐れ入るねえ」
 裾をからげた和服に長い髪。すらりとした女は二十代のなかばくらいで、その頭の上にはどういうわけか三角形の大きな耳が生えている。見れば尻には長い尾まであった。
 しかし、レイジは突然現れた猫耳尻尾の女にも驚かなかった。
「たまには潜らないとなまるだろうが、オーナー」
「ぬかせ。そっくりそのままお返しするよ」
 不機嫌そうに答える化け猫の正体は、萬屋オーナーの東尾しづだ。
 これが、彼女の夢に潜るときの姿――”夜の姿”なのだ。
 ドリームダイバーは夢に潜るとき、現実世界と異なる姿をとることがある。精神の真のありようを示しているとか、願望を示しているなどと言う者もいるが、はっきりしたことは不明である。
「さてと、こんな場所、長居は禁物さね。さっさと目的のブツを探すよ」
「へいへい」
 広場の一方はぼんやり淡い光に照らされ、逆側は闇に消えている。二人は明るい方へ向かうことにした。
 やがて建ち並ぶ円柱が左右から迫り、通路に近い形となる。石造りのように見える円柱は一様に古びた様相で、ところどころが欠けていた。中には根本付近が大きくえぐれているのに、なぜか立ったままのものもある。
「辛気臭ぇ場所だな」
「ナイトメアの中に景観を期待してどうする」
 ここはナイトメア――異界に魅入られた者が見る、夢の中。その様相はさまざまだが、現実の法則が通用しない場所である。
 時折、円柱の間に奇妙なものがぶら下がっているのが見られた。それは針の歪んだ巨大な時計だったり、怪しく光る小瓶の群れだったり、蝙蝠の翼だったりした。
「うわキモッ」
「放っておけ。構っていては身が持たん」
 もとより夢は混沌の領域だ。脳に保管された記憶がでたらめに攪拌され、脈絡なく立ち現れる。わけてもナイトメアは、異界の影響を受けたとびきりの悪夢なのだ。
 やがて前方が再び開けた。どうやらさっきと同じような広場になっているらしい。
 ふたりは円柱の陰に隠れると、慎重に広場を覗き込む。
「……なんだありゃ」
「しっ」
 天井の高い空間だった。四角い広場は深く掘り下げられ、レイジとしづのいる場所よりもはるかに低い場所に床があった。階段状の座席のようなものが、向かい合わせで設置されている。
「よろしくないねえ……」
 囁き声でしづが言った。レイジもヘルメットの下で眉をしかめる。
「あれ全部、夢魔か?」
「そのようだ。あまり強くはなさそうだが、数が多い。戦いたくはないね」
 座席らしき場所に蠢く、影のような塊。ざっと数十はいるだろうか。ぼんやりと黒っぽく、人とも獣ともつかない姿のそれらは、ナイトメアに巣食う異形ども――夢魔だ。
 凶暴さの度合いに個体差はあるが、ドリームホルダーの意思とは関係なく闖入者を排除してくる、ナイトメア特有の存在である。
「しかし、どっかで見たような景色だねえ」
 広場を観察していたしづが首をひねる。向かい合った階段状の座席には、レイジも見覚えがあるような気がした。
「なんだっけコレ」
 ネットだったか、テレビだったか。しかしそこで、レイジのエナメルの腕がついと引かれた。
「んだよ、今考え事してんだけど」
「――まずい」
 しづの声は緊張を帯び、猫耳が後ろ向きに伏せられている。彼女が指さすほうをレイジは視線で追い、息を呑んだ。
「げっ」
 広場の中央、一番低くなった場所に学校の教卓のようなデスクが据えてあり、そこに人型の何かがいる。
 シルエットからすると女、のように見えた。
 ヨーロッパの絵画に出てくるような重厚なドレスをまとっている。その巨大に結い上げた髪らしき塊の下から見える、楕円の頭部は。
(マジかよ……)
 顔が、ない。
 心臓を冷たい手で撫でられたような気がした。
「おい、ゴーントがいるなんて聞いてねえぞ! 最近情報精度下がりまくりじゃねーの?」
 小声のまま語調だけ強めると、同様の声でしづの答えが返ってくる。
「そんなの事前に知りようがないだろ!」
 ――ゴーント。
 ナイトメアの中で出会う、顔のない怪物。
 多くのドリームダイバーはその存在を知っている。噂話の形で、あるいは先輩からの忠告として。しかし実際に出会った当人から話を聞いたことのある者は、少ない。
 やつらはドリームダイバーを食おうとしてくるのだとも、ダイバーの精神にとりついてナイトメアに引きずり込むのだともいうが。
 ひとつ確かなのは、非常に危険な存在だということ。
「とにかく、アレに見つかったらおしまいだよ。慎重に……」
 しづがくるりとレイジのほうを向く。
 彼女の長い尾が、すぐ脇の円柱の一点を打った。
 円柱の上部から、ぱらぱら破片が落ちてくる。それは広場へ落ち、外壁の座席にぶつかって、からんからんと音を立てた。
 ――夢魔たちが、一斉にこちらへ注意を向けた気配があった。
「オーナー……?」
 じとりと見やるとしづは美しい顔をこわばらせていた。
 黒い影たちは思案するかのようなしばしの間ののち、階段状の座席から広場の壁にとりついた。そうして、壁をよじ登って二人に向かってくる。
「あっ、あたしは隠密行動は得意じゃないんだよ! だからお前さんひとりで行けと言ったのに!」
 しづが泡を食った顔など大変レアだ。うまくすれば今後の取引材料になりそうだが、それも生きてナイトメアから出られたらの話。
「ちょっ……どーすんだコレっ!」
「逃げるしかないだろう!」
 二人は迫りくる夢魔の群れに背を向け、一目散に逃げ出した。

(次回更新予定:7月10日)

●おわりに

今回は『東京インソムニア』のイメージノベル第3回をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。物語はいよいよ佳境、次回は最終回となります。ぜひ楽しみにお待ちいただけたら幸いです。

一方で、アルパカコネクトのサービス開始準備も佳境です。準備期間中もできるだけ皆さまにお楽しみいただけるよう情報発信を行ってまいりますので、引き続きアルパカコネクトblogをどうぞよろしくお願いいたします。

それでは、またの機会に!

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