東京インソムニア イメージノベル第1回!

●はじめに

こんにちは、アルパカコネクト運営です。今回のアルパカコネクトblogでは、都市型現代伝奇ノベルPBW『東京インソムニア』の情報をお届けします。

これまでにも何度か『東京インソムニア』の世界観情報をお伝えしてきましたが、現代ものだからこそ、雰囲気を把握し切れていないと感じている人がいるかもしれません。また、ホラーテイストの伝奇ものといっても幅があります。実際にどんな内容なのか知りたい方もいるでしょう。

世界観を掴むには、やっぱり物語が一番です。そこで今回は『東京インソムニア』のワールドディレクター(WD)をつとめる弊社の狸穴醒によるイメージノベルをお届けします!

イメージノベルは全4回の連載となる予定です。公式NPCのレイジ東尾しづが活躍する物語を、ぜひお楽しみください。

▼都市型現代伝奇ノベルPBW『東京インソムニア』公式サイト

レイジ(イラスト:倉津

東尾しづ(イラスト:れんた


●出口、なし(1)


 きみの存在は奇跡だ。
 きみは僕の知っている女たちとは違っていた。穢れを知らず、いたずらに騒ぐこともなく、群れることもない。
 そんなきみが、どんなアイドルやモデルでもかなわない眩しい微笑みを浮かべて、僕を見てくれた。
 それどころか優しく声をかけて、そっと手に触れてくれたのだ。
 ああ、美しいきみの姿を、ずっと留めておくことができたなら、僕はどんな代償でも払うだろう。

 どうか、どこへも行かないで、僕のアリス。



 ――高級タワマンの怪! 消えた三百人超の住民は今どこに――
 扇情的な文字が、紙面に踊る。
 見出しに続く記事は、都心部のマンションで十年ほど前に発生した未解決事件の顛末を伝えていた。いわく、高級マンション《リバーサイドレジデンス》が、入居の始まった一週間後に一夜にして無人になった、と。
(くっだらねえ)
 男は内心で毒づいた。彼は脱色した髪をかきあげ、三白眼をすがめた不機嫌な表情のまま《喫茶ウルタール》という文字の消えかかったカップに口をつける。珈琲はすっかり冷めていた。
(ったく、婆さんはいつになったら来んだよ)
 店内を見渡せば、広々とした喫茶店の席は七割がた埋まっていた。古ぼけたビロード風の赤い絨毯、埃をかぶったシャンデリア。平日の午後のことで、西新宿という場所柄スーツのサラリーマンの姿が多い。しかし寝巻かというようなジャージの若者やゴシックファッションの女性など、一見して何者かわからない人物も散見される。
 だが、男の待ち合わせ相手の姿はなかった。彼は再び、紙質の悪い新聞に目を落とす。
「待たせたの」
 涼やかな声が聞こえ、男は顔を上げた。
「キョウノミヤ新聞は面白いかい、レイジよ」
 いつの間に座ったものか。二名席の向かいで小首をかしげたのは、可憐な少女であった。身長に比して長すぎるほど長い黒髪、落ち着いた花柄の和服をまとった姿は、周囲から明らかに浮いている。
 が、店内の誰も、彼女を奇異の目で見てはいなかった。
 ここは、そういう店だ。
 唐突に相席を強いられた男、レイジもまた、驚きはしなかった。この女は――東尾しづは、そういう存在だ。
 だからレイジは、ただ細く整えた眉をしかめる。
「ぜんっぜん。この事件、何度も記事になってるじゃねえか。毎回毎回似たようなこと書きやがって」
「あたしに文句を言われてもねえ。その新聞は『そういうもの』だからね」
 しづはしかつめらしい仕草で頷いている。
「ていうか、遅ぇ。人呼びつけといてどんだけ待たせんだよ」
 レイジが言うと、しづは鷹揚に微笑んだ。
「すまんすまん、少々客が立て込んでいた。しかしお前さん、どうせ暇だろう?」
「なわけねーだろ。俺には新曲の構想を練るという大事な仕事が」
 しづは眉尻を下げた。
「やはり暇か。またバイトをクビになったという噂は本当のようだねえ、気の毒に」
「余計なお世話だっつーの!」
「そりゃお前さんが何度クビになろうがあたしの知ったことじゃあないけどね、次のバイト先は見つかったのかい? 人間にはおまんまが必要だろ」
 いかにも同情するような口調のしづに、レイジはぐっと黙り込んだ。
「……で、俺に何の用だよ」
 別に聞きたくはない。聞きたくはないのだが仕方なく水を向けると、しづは悪戯っぽく微笑んで言ったものである。
「お前さん、女子高生は好きかい?」
「いや語弊しかねーだろ」
 レイジは警戒を顕わにしたが、しづは口元に手を当ててころころ笑う。
「暇で仕方がないお前さんに、私がひとつ仕事を与えてやろうじゃないか。もちろん報酬は弾むさ、うまくやればだがね」
 美少女のなりをした女の目が、三日月の形に細められた。
「聞くかい?」



「――出られなくなるんだそうでね」
 少しだけ声のボリュームを落とし、しづはそう言った。
「出られなくなる? どこから? っていうか、誰が?」
「ふむ、順を追って話そうか。私の古い知り合いが持ってきた話なんだがね」
 しづの話によると。
 今回『被害』に遭っているのは篠ノ井楓。都内の女子校に通う十七歳だそうだ。
「シノノイカエデ? お嬢くせえ名前だな」
「お嬢様には違いない。父親が複数の会社を経営していてな、海際の立派なマンションに住んでいるぞ」
「けっ」
 その楓嬢が奇妙な現象に見舞われるようになったのは、ひと月ほど前からのことだ。
 ひとりで密閉された空間に入ると、自力で出られなくなる――という現象。
 鍵もかかっていないのに、ドアや窓を内側から開けられなくなるのだ。密閉されていると判定される条件は、外界に通じる出入り口がすべて閉じていること。
「えらい地味だな」
「確かに地味な怪異ではある。外から開けることはできるそうだから、家族や家政婦がいるときは大して困らんな」
「つって、不便っちゃ不便か……」
 窓やドアが閉じている場所を密閉空間と定義するなら、日常生活で頻繁に発生しうる。気をつけるにも限度があるだろう。
「で、婆さんは」言いさして、しづの形相に気づき言い直す。「……オーナーは、それが《侵蝕》だと睨んでるわけか?」
「いかにも」
 しづは重々しく頷いた。
「偶然じゃねーの」
「もちろん、その可能性もあるがね。しかし頻度が尋常でないからの」
「ふーん……」
 レイジは顎をつまんで考え込んだ。
 この東京では、一般の人々がそう思っているよりおかしなことがしばしば発生するというのは、レイジもよく知っている。少なからず自分もその一端に関わってしまっているということも。
 それだけにしづの話は不穏だ。聞く限り小さな異変のようだが、首筋がぴりぴりするような嫌な予感がある。
 そこでしづは真顔になると、レイジが口を挟む前に言った。
「本当に《侵蝕》なら、夢の持ち主はいずれ異界に取り込まれる。下手をすれば異界が流出して、どんな災厄が起きるかもわからんぞ。放ってはおけん」
 囁くようにしづは告げる。
「なにしろ十七歳、思春期真っ只中だ。人生で最も不安定な時期じゃないか。どんな夢に囚われても不思議はないだろう?」
 ――夢に、囚われる。
 それは比喩ではない。到底、関わり合いになりたいとは思えなかった。
「思春期、ねえ……ほんとにそのお嬢が原因なのか? 何不自由なさそうじゃねーか」
「人知れぬ悩みがあるかもしれないだろ。ま、潜ってみりゃわかるさ」
 しづはうって変わって軽い調子である。レイジは肩をすくめた。
「おいおい、忘れたのかよ。俺は生きた人間の夢に潜るのなんざ御免だ」
「ふん、チキンめ」
「うるせー。俺は繊細なアーティストだから、ダイブの影響を強く受けるんだっての。ほんとに《侵蝕》だってんなら、対策室にやらせときゃいいだろ」
 レイジはそっけなく言った。しづがため息をつく。
「お前さんも対策室の登録ダイバーだろうが」
「登録してるだけだ。仕事を受けるか受けないかはダイバーの自由だぜ」
「ふむん、東京都侵蝕対策室か……」
 しづは首をかしげて少し考えるそぶりを見せてから、低い声で言った。
「お前さん、あの連中をどこまで信用している? 奴ら、所詮は役人だろう。役人が優先するのはいつでも多数の利だぞ」
「そんならなおさらだろ。侵蝕に対抗する分には任せといていいじゃねーか」
 するとしづは不快そうに鼻を鳴らす。
「……あの眼鏡。あれはいかん」
「眼鏡て。まあ、眼鏡だけどさ」
 しづが言っているのは、東京都侵蝕対策室の室長のことだ。隙なくスーツを着こなし微笑を絶やさないその男を、レイジも好いてはいないのだが。
 しかし、しづの個人的な反感で厄介ごとを背負わされてはかなわない。絶対断ってやる、と決意を新たにしたところで。
「ところでなあ。先だって、お前さんが上の店に持ち込んだ品だがね」
 ぎくりとした。
「よくもこのあたしに紛い物を掴ませたねえ? 危うく恥をかくところだったぞ」
 見ればしづの口元は変わらず笑みの形をしているが、その大きな目はちっとも笑っていなかった。有無を言わせない視線が、レイジを射抜く。
「――やってくれるな?」
 選択肢はなかった。

(次回更新予定:6月19日)

●おわりに

今回は『東京インソムニア』のイメージノベルをお届けしましたが、いかがでしたか? ぜひ、世界観を理解する参考にしてみてください。
また『東京インソムニア』では、プレイヤーキャラクターを主人公にしたノベル商品「ワールドノベル」が発注できます。どんなノベルで遊ぶか、考えてみるのも楽しいかもしれません。

東京インソムニアイメージノベル『出口、なし』の次の更新は6月19日(金)を予定しています。第2話以降も、ぜひ楽しみにお待ちください!

アルパカコネクトblogでは引き続きPBW情報を発信してまいりますので、更新の際にはご覧になっていただけますと幸いです。

それでは、またの機会に!

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