東京インソムニア イメージノベル第2回!

●はじめに

こんにちは、アルパカコネクト運営です。

今回のアルパカコネクトblogは、前回の記事でお知らせいたしました通り、都市型現代伝奇ノベルPBW『東京インソムニア』のワールドディレクター(WD)をつとめる弊社の狸穴醒による『東京インソムニア』イメージノベル「出口、なし」第2話をお届けします。

イメージノベルは全4回の連載となる予定です。公式NPCのレイジ東尾しづが活躍する物語を、ぜひお楽しみください。

▼都市型現代伝奇ノベルPBW『東京インソムニア』公式サイト


レイジ(イラスト:倉津

東尾しづ(イラスト:れんた

●出口、なし(2)


 目当ての学校は、山手線の駅からオフィス街を抜けた先にあった。道路に面した校舎はしゃれたオフィスビルのような風情だ。下校時刻を過ぎ、上品な制服姿の少女たちが続々と門を出てくる。
 路上駐車のトラックの陰から校門の様子をうかがうレイジは、ターゲットの現れるまでの間と思いスマホを取り出した。
 立ち上げたアプリは《spouter(スポーター)》。東京限定のSNSだ。レイジは特殊な認証コードを入力してから、検索窓にキーワードを入れた。
(わりと多いな)
《spouter》の画面に表示されているのは、古今のさまざまな事件の情報。特に侵蝕の可能性が高いものについては、それとわかるアイコンがついていた。
(閉じ込められるって怪異は結構あるっぽいけど……やっぱり今回の情報は上がってきてねえか)
 そのとき、校門から出てきた生徒のグループがあった。
(おっ、あれか?)
 友達らしきふたりに挟まれたすらりと背の高い少女。やや古風さを感じる整った顔立ち。しづから受け取った写真データと同じ顔――篠ノ井楓だ。
 レイジが横断歩道を渡る間に、三人組の少女は駅方面へ歩き出している。適度な距離を置き、レイジは追跡を開始した。
 篠ノ井楓は長い髪をなびかせ左右の少女と楽しそうに会話しているが、どことなく「従えている」雰囲気が漂うのは、彼女のまとう風格のせいか。
(末は女社長の地位が約束されてるってか。ったく、異世界すぎるぜ)
 お嬢様たちは、多分にやっかみの含まれた視線を向けるレイジに気づいた様子もない。
(さて、どこでどうやって接触するか)
 思案しながら三人を追ううちに、駅が見えてきた。レイジの前で少女たちはひょいと進路を変えると、コンビニに入る。
(ははーん、丁度いいな)
 レイジはコンビニの外壁に背を預け、しばし待った。胡散臭い金髪の男を中から出てきた老婦人がちらりと見て眉をひそめたが、こういう態度を取られるのは慣れている。
 やがてレジの小袋を手にした少女たちが、篠ノ井楓を先頭にこちらへ向かってくるのがガラス越しに見えた。しかし――
 レイジは細く整えた眉をしかめた。
 買い物を済ませた少女たちが、自動ドアの前に立っている。だが、開かない。
 篠ノ井楓の秀麗な顔に影がさした。表情に怯えのようなものが潜んでいるのは気のせいだろうか。連れの少女たちも首をかしげる。
 急にドアが故障することも、ないとはいえないが。
(ちっ、ピリピリきてやがる!)
 首筋が粟立つような感覚がある。これは――異界の気配だ。
(閉じ込められるのはお嬢様ひとりのときだけなんじゃなかったのかよ!?)
 今現在店内には篠ノ井楓と彼女の友人二人、さらにレジカウンターの中には店員もいる。しづから聞いていた話とは様相が違う。
 レイジは寄りかかっていた壁から身を起こす。
(ここもババアの話と違ってると面倒くせえけど……)
 レイジが前に立った途端、ドアはあっさり開いた。篠ノ井楓が目を見開くが、連れにつつかれてすぐに歩き出す。
「なんだったの? ドアの故障?」
「店員さんに言ったほうがいいのかな? ね、楓さん」
「ど、どうかしら……」
 横目で見た篠ノ井楓の頬は――蒼白だった。
 不自然にならぬよう細心の注意を払いつつ、レイジはすれ違いざまに篠ノ井楓の鞄に肘を当てる。学校指定の革の鞄が大きく揺れ、長身の少女がよろめいた。
「おっと、悪ィな……」
 そこでレイジは息を呑んだ。
 青い顔をしていた篠ノ井楓が切れ長の目に物理的圧力すら感じさせる光を宿し、レイジを睨んでいたからだ。
 篠ノ井楓は手を軽く横に広げ、ふたりの連れより一歩前に出ている。その姿はまるで、友人たちを背にかばっているかのようで。
「……いいえ」
 篠ノ井楓は手ぶりで友人たちを先に行かせ、自分はレイジから目を離さないまま最後に店を出て行く。
「こっわ」
 レイジはすたすた駅へ歩き去る篠ノ井楓の背を見送り、思わずつぶやいた。


 コンビニを後にしたレイジは歩きながらスマホを取り出す。着信履歴から電話をかけると、相手はワンコールで出た。
「あー、オーナー? 俺だけど」
『なんだ、お前さんか』
 東尾しづは、電話の相手がレイジだとわかった途端にぞんざいな口調になった。
『どうしたい、今は調査中のはずだろう? まさかサボっちゃあいないだろうね。真面目にやらないと報酬は差っ引くからね』
「サボってねーっつーの! 例のお嬢、すげえ怖えぞ。女王様みてえ」
 前方を歩く篠ノ井楓の背を視界に収めてぼやく。電話口の向こうでしづはおかしそうに笑った。
『で、何か変わったことでも起きたかい』
「ばっちり起きたぜ、例の怪異。侵蝕現象で間違いねえと思う」
 コンビニのドアが開かなかった件を駅の構内の人混みを避けながら説明したところで、しづに言うべきことを思い出す。
「そういやオーナーのくれた情報、間違ってたぜ」
 コンビニに閉じ込められたとき中にいたのが“篠ノ井楓ひとりではなかった”ことを、レイジはしづに伝えた。
「あんだけ情報自慢してるくせに、肝心なところで間違ってんだからなァ。頼むぜ」
 嵩にかかった言い方になったのは常日頃の恨みだ。
 だが、しづの反応は芳しくなかった。彼女は『ふむ』と考え込んだ様子である。
 調子を狂わされたレイジは、片手でICカードを引っ張り出しながら別の疑問を口にする。
「なあオーナー、本当にあのお嬢が原因なのかよ。俺には全然そんな気がしねえんだけど」
 しづは少しの間のあと『さてねえ』と曖昧に濁した。
『ともかくお前さん、もう本人には会ったんだろう?』
「まあ、会ったけどさ」
『なら、四の五の言わずに潜ってみればよかろ。互いを認識したら縁は結ばれる。何も迷う理由などないだろうよ』
「結局それしかねえのか……」
 篠ノ井楓は改札口から少し離れたホームドア前で電車を待っていた。友人たちとは別れたらしく、彼女ひとりだ。
「お嬢が電車乗るから、あとでかけ直すわ」
 しづは少し驚いたようだった。
『まだ彼女を尾行してるのかい? 会ったならもう必要なかろうに』
「そうなんだけどさ……なんか、妙な予感がするんだよ」
『ふぅん、お前さんの勘はときどき鋭いからねえ。だが変質者として通報されても、店の名は出すんじゃないよ』
 されねえよ、と言いかけて電車が来てしまった。
 レイジは電話を切ると人波に押されつつ山手線に乗り、優先席の前を横切って連結部に陣取る。連結部から隣の車両を覗き込めば、ドア近くで篠ノ井楓が吊り革を掴んでいるのが見えた。
(心配しすぎか……?)
 毎日六百を超える本数が走るという山手線は、夕暮れ迫る東京を見下ろす高架をゆく。オフィス街を抜け、雑多な建物や看板の間を縫って、やがて新交通ゆりかもめとの乗り換え駅が見えてきた。
 駅名がアナウンスされ、篠ノ井楓を含め降車する客がドアの前へ向かう。が――
(ここもかよ!)
 ドアが、開かない。
 乗客たちはしばし降り口でおとなしく待っていたが、一分、二分とその状態が続くと、徐々にざわめきが広がる。
『えー、ただいま新橋駅に到着しておりますが、車両に問題が生じております。恐れ入りますがご乗車のまま……』
 ホームを慌ただしく走る駅員たちが、窓越しに見えた。
(まさか、この電車ごと侵蝕されてんのか? そんなの俺の手に負えねーんだけど)
 不意に、車内が暗くなった。レイジは反射的に窓の外へ目を向ける。
(げっ)
 当たり前の都会の駅構内だったはずだ。
 しかし今そこには、巨大な円柱状の物体が、遥か彼方まで立ち並んでいるのだった。
(おいおいおいおいおい……!)
 正確には駅の風景が変わったわけではない。駅構内の様子に二重写しのようにして、異様な景色がかぶさっているのだ。
 レイジが視線を巡らすと大半の乗客は気づいていないらしく、ドアが開かないことに苛立っているだけだ。しかし一部は不気味そうに窓の外を見たり、小さく悲鳴を上げる者もいた。
(やべえな、これ)
 車内は静かにパニックへ向かおうとしていた。背中を伝う嫌な汗を、レイジは意識する。そこで、空気の抜けるような間抜けな音が聞こえた。
 列車のドアが、一斉に開く。
 どうやら駅員が手動で外からドアを操作したらしい。乗客たちは不審そうな顔をしつつも、整然と列を作って降りていった。開いたドアから見える風景は、至って正常な駅の構内だ。
 レイジは山手線を降りると、ホームの端で再びスマホを手にする。
「おいババア!」
『ほう、いい度胸じゃないか。どうやらお灸が必要そうだ』
 しづの声にも構わず、レイジは「そんなこと言ってる場合かよ!」と言い募った。
「状況めちゃくちゃ悪化してんぞ! どこが『地味な怪異』だよ!」
「新橋駅周辺で侵蝕現象とみられる怪異が発生したってのは、こっちにも届いてる。詳しく話しな」
 山手線のドアが開かなくなったこと、車内から異界めいた風景を目撃したことを聞くと、しづは『ふむ』と唸る。
「あのさあ、俺そろそろ帰りてーんだけど」
『おやおや、尻尾巻いて逃げ出すってのかい』
「どうとでも言えよ! こんなん関わってらんねーわ」
 レイジは吐き捨てる。この先は危険だと、勘が告げていた。
 しかし、萬屋店主は逃がしてくれなかった。
『……これは二か月ほど前の話なんだがねえ。お前さんを、地下迷宮のある場所で見かけたってえ噂があるんだよ』
 不思議でたまらないといった調子で、しづは言う。
『おかしいねえ。お前さんには許可されていないはずの場所なんだけどねえ……何しろ危険だからねえ、これはやっぱり、侵蝕対策室に相談しないといけないかねえ……』
 駅のホームで、レイジはわめいた。
「くそっ、やりゃあいーんだろ、やりゃあ!」

(次回更新予定:7月3日)

●おわりに

前回に引き続き『東京インソムニア』のイメージノベルをお届けしましたが、いかがでしたか?
『東京インソムニア』では、今回のノベルのような日常の延長のような事件から、もっと大がかりだったり陰惨だったりする事件まで、プレイヤーとライター次第でさまざまな侵蝕事件を発生させることができます。ぜひ、想像を膨らませてみてください。

さて、次回更新は少し空いた7月3日の予定です。その間、アルパカコネクトでは大きな発表を順次行っていく予定となっておりますので、あわせて楽しみにしていただけますと幸いです。

それでは、またの機会に!

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